電力使用量NOW

2011年3月23日水曜日

放射能と風評被害

放射能というと身構えてしまうが、世の中に放射線を使ったシロモノは意外とありふれている。問題なのは、そういった医療器具による被曝と、今回の原子力発電所による被曝を単純に比較して、安全だ何だと安易な結論を出すことである。

人間をはじめとする生物は、外部から余計なエネルギーを獲得して活性化すると、いろいろな不具合が起きる。「エネルギーを獲得する」なんて聞こえのいい言葉かも知れないが、例えば熱いものに触れてやけどをする…これだって「熱エネルギーを外部から獲得し、皮膚の一部が変質する」と言い換えることだってできてしまう。基本的に、生物というものは外部からの余計な外乱は受けてはいけないのである。

ただ、全ての放射能だ放射線だをひとくくりにして、とにかく「恐ろしいもの」と片付けてしまうのも尚早である。正しい知識を身につけていれば、自分…というか人体がどこまでの放射線を許容できるか、という目安を設定することができる。毎日のように繰り返される「直ちに人体に影響の出るものではない」という言葉を鵜呑みにせず、その放射線量がどれだけ人体に影響を及ぼす数値であるのかを正しく認識することが重要である。

以下、例を挙げる。概算なので、所々不正確な箇所もあるが、例としてあげているのでご容赦願いたい。

まずは被曝量「グレイ」を基にして、人体への影響「シーベルト」へと換算する。今回よく話題に挙がる「ヨウ素131」は、ガンマ崩壊をしてガンマ線を放出するヨウ素の放射性同位体である。

例に挙げるヨウ素131が、例えば1立方メートル当たり32000ベクレル程度であったとする。この値は、ヨウ素131の原子の数=存在している数=多さで決まるから、ベクレルとは「存在する量」によって決まる。ある空間にヨウ素131が存在していたら、そこにどれだけの量のヨウ素131が存在するか?でベクレルの値が決まる。つまり、この値が大きければ大きいほど、放射性物質が数多く含まれていることとなる。そして、このヨウ素131から放出されるガンマ線の波長が10pm(ピコメートル)であったとすると、その放射線エネルギーは、

e=hν(eV)

を用いて計算できる。振動数νは波長から以下の式で換算できる。

ν=c/λ
c:光速(3.0 x 10E+8[m/s])
λ:波長[m]

よって、

e=4.136x10E-15 x {3.0 x 10E+8 /(10 x 10E-12)}
 =4.136 x 10E+4 x 3.0
 =12.408 x 10E+4
 ≒1.24 x 10E+5 [eV]
 =0.20 x 10E-13 [J]

このことより、10pmのガンマ線1線当たりのエネルギーが分かる。ヨウ素131が32000ベクレルであるということは、1秒間当たり32000回の崩壊、すなわちガンマ線の発生が起こっているということであるから、このエネルギーが仮に全て体重65kgの人体に吸収される(体内被曝=最悪の場合)とすると、この人は体重1キロあたり1秒間に、

32000[Bq] x 0.20 x 10E-13 / 65
≒97.86 x 10E-13
=9.8 x 10E-12 [Gy/s・kg]

の被曝を受けることとなる。1日当たりは、これに3600 x 24を乗ずればよい。

ガンマ線の荷重係数は1であるので、この値をそのままシーベルトとして読み替えて差し支えがないから、1年間この体内被曝を続けたとすると、

9.8 x 10E-12 x 3600 x 24 x 365
=309052800 x 10E-12
=3.09 x 10E-4 [Sv]

の被曝となる。ただし、大気中に漂っているヨウ素131粒子を継続的に吸い込んでいたとすると、当然のことながらこの数値は上昇する。人間は1分間に40リットルの空気を吸い込むらしい。1時間では2400L、1日では57600Lである。1年間であれば21024000Lである。本日のニュースでは、1立方メートル当たり32000Bqのヨウ素131が検出されたとあるので、この空気を1年間吸い込み続け、その全ての放射性物質が体内に取り込まれたときの被曝量は、

1立方メートル=1000リットル
∴21024000リットル=21024立方メートル

であるから、単純に上記被曝量を21024倍すればよいから、

∴3.09 x 10E-4 x 21024
=64964.16 x 10E-4
=6.5 [Sv]

かなりの量の被曝である。しかし、この値は「ヨウ素131がずーっと放射能を持ち続けている」場合の仮定である。実際にはヨウ素131は8日で半分に消滅(崩壊)し、別の物質へと変わる。この仮に8日間だけであったとすると、

9.8 x 10E-12 x 3600 x 24 x 8
=6773760 x 10E-12
=6.8 x 10E-6 [Sv]

これを57600L x 8日分吸い込んだとして、
立方メートル換算で460.8を乗ずればいいから、

6.8 x 10E-6 x 460.8
=3133.44 x 10E-6
=3133.44 [μSv]
=3.1 [mSv]

本当は単純な8のかけ算ではなく、ゼロに漸近する対数の積分になるため、もう少し違った値になると思われる。

実際には、存在している粒子を全て吸い込むことなんてあり得ないし、8日の間に排出されて、全てが体内に蓄積して被曝するとも限らないから、この値は「本当の最悪」の場合である。実際の被曝量は、これよりも小さくなるであろう。

シーベルトの値が健康に与える影響と基準値はWikipediaの「シーベルト」の項に詳しい。

以上。

2 件のコメント:

  1. はじめまして

    こうした定量的な見積りが重要ですね
    参考にさせてもらいます

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  2. nethatさん、初めまして。
    コメントありがとうございます。

    本項でも触れた通り、あくまでも一例であって、必ずしもこの通りになるということではないことをご了承ください。

    最近は「分からないでは済まされない」ことが増えてきました。一般の人でも「何に対しても知ろうという姿勢を持つこと」や「基本的な仕組みを理解すること」が求められていると思います。

    放射能に関しては「確率」が大きなウェイトを占めるため、概算以上のことはなかなか強く言いづらい面もあります。可能性で物事を判断することがいいことだとは決して思いませんが、予備知識の一つとして保持しておくに超したことはございません。

    そんな私の忘備録として読んでいただければ幸いです。

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