電力使用量NOW

2011年3月21日月曜日

原子力に関する諸知識

原子力発電所関係のニュースが刻一刻と発表され、危険を顧みず現場で働いている人たちには全くもって感謝をせずにはいられないのだが、ニュースでは原子力に関する用語や、工学の専門知識が多く飛び交っている。もちろん一般の人たちには聞き馴染みのない言葉ばかりなので、余計に不安をかき立ててしまう結果となりかねない。

そこで、ニュースで頻繁に飛び交う専門用語をいくつかかいつまんで分かりやす…いかどうかは分からないが、自らの防備録も兼ねてかみ砕いてみた。

そもそも「放射能」とは、ある物体が「放射」という物理現象を引き起こすことのできる能力のことであり、その物体が放射を行うことにより「放射線」が放出される。まずは、この3つの「放射」がつく単語を混同しないことが大事である。

放射→現象の名前
放射能→能力の名前
放射線→電磁波の総称

である。

放射能を持つ、つまり、放射線を放出する物質を「放射性物質」といい、そのような元素を「放射性元素」などと呼ぶ。ウランやプルトニウム、ラジウムなどがこれに当たる。他にも放射性物質はたくさん存在するが、原子番号の大きい部分に多くがまとまっている。

放射とは、放射能を持つ放射性物質が行う現象の名前であることは説明したが、その結果放射線が放出される。しかし「放射線」という名前の電磁波が存在するわけではなく、人体に有害な電磁波の総称であり、その正体は「ガンマ線」「X線」などの、非常に小さい波長(波の間隔のこと)を持った電磁波、または強いエネルギーを持つ「アルファ波」や「ベータ波」などの粒子線である。問題になるのはガンマ線の「非常に小さい波長」という厄介な性質で、波長が小さいと、人体をはじめとして多くの物質を通り抜けてしまい、特に人体には何らかの悪影響を及ぼしてしまう。X線は、この電磁波の「透過性」を逆に利用し、X線を通しにくい「骨」のみを撮影するために利用される。ガンマ線を完全に遮蔽するには、分厚い鉛の壁やコンクリートが必要になる。核シェルターが分厚いコンクリートと鉛でできているのは、このガンマ線を遮蔽するためである。

ここで、放射能に関する単位をまとめておこう。

ニュースで頻繁に聞かれる単位は「シーベルト(Sv)」であるが、これは放射能そのものの強さを表す単位ではない。放射される放射線の種類によって、人体にどのような影響を及ぼすのか…を表す尺度である。つまりは「人体」を基準にした放射線の健康への影響を表している数値であって、その場に存在している放射線の強度を表すものではないということだ。結果的にはこの数値を用いても、間接的に放射線の強さを表すことになるのだろうが、それはスポーツでいえば「ボクシングフェザー級王者とスキーラージヒルジャンプ金メダリスト。果たしてどちらがシンクロナイズドスイミングで勝つか?」という、全く土俵の違う2つどうしを、全く違う土俵で比較することになってしまうため、あまり好ましいことではない。

放射線そのものの単純な「強さ」を表す単位は存在しない。しかし、放射線といえども波長と振動数を持つ波であるため、そのエネルギーはプランク定数h、振動数νを用いて、

e=hν(eV)

で表される。しかし、これは放射線1つ当たりのエネルギーを表したものである。放射線は通常1本だけの波で伝搬するものではないため、通常は「総量」というかたちで放射線の強さを測ることとなる。

放射線をどれだけ多く(強く)吸収したか(≒放射線の強さ)を示す単位は「グレイ(Gy)」である。ある物質が放射線をどれだけ吸収したか?を1kgあたりに置き換えて表したものである。つまり、この単位の対象を人体に適用すると「被曝量」を表していると考えても良い。1kgの物質に1J(ジュール)のエネルギーが吸収されたとき、その吸収量を1Gyとしている。

この「グレイ」を基に、放射線の種類ごとに「どれだけ人体に有害か?」を表した単位が「シーベルト(Sv)」である。同じ放射線の吸収量(グレイ)でも放射線の種類によって、人体への影響の度合いが変わってくるため、X線やガンマ線、アルファ線や中性子線などの放射線の種類によって「倍率(荷重係数)」を変える必要がある。詳しくはWikipediaの「シーベルト(単位)」の項参照。

他にも「ベクレル(Bq)」という単位がある。これは「ある放射性物質が、1秒間に何回放射線を放出するか?」を表す単位である。つまり、これは放射線の強さ云々ではなく、放射能(放射線を出す能力ね)の大きさを表す単位であって、結果として放出された放射線の強さとは関係がない。放射線の種類に依らないので、ベクレルが大きいからといって他の小さいベクレルの物質よりも危険…とはならないことに注意が必要である。

次に、ミリとマイクロの違いについて。原子力安全保安院の話を聞いていると「ミリ」「マイクロ」という言葉が「シーベルト」にくっついて飛び交い、非常に紛らわしい。測定学や工学、理学を勉強している人間なら説明も必要ないと思うが、一般の人は「数字の大きさ」だけで判断してしまいがちなので、このミリとマイクロにどんな意味があるのかをよく知っておいてもらいたいと思う。

例えば、保安院で「午後○時の段階では250ミリシーベルトであったが、午後×時では250マイクロシーベルトになった」と発表があったとする。「250」という数字だけにしか注目していないと、上がったのか下がったのか、そもそも変わったのかすら分からないが、この発表では「午後×時では、午後○時と比べて1000分の1に軽減された」ということを言いたいのである。つまり、マイクロとはミリの1000分の1であり、ミリとはマイクロの1000倍である。ミリやマイクロが全く付いていない状態は、1メートルが1000ミリメートルであるのと同じように、ミリの1000倍である。

簡単に言えば「マイクロのものが1000個集まったら、その1000個の集団1つを1ミリにする」「ミリのものが1000個集まったら、その1000個の集団1つを1(何も付かない)とする」ということである。

まとめると、

1シーベルト = 1,000ミリシーベルト = 1,000,000マイクロシーベルト

1,000マイクロシーベルト = 1ミリシーベルト = 0.001シーベルト

上記「午後○時…」の例では、

250ミリシーベルト = 250,000マイクロシーベルト
250マイクロシーベルト = 0.25ミリシーベルト

こういう「倍率」を表す言葉はたくさんあり、コンピュータ用語などで頻繁に用いられる。

E(エクサ)…1,000,000,000,000,000,000倍(100京倍)
P(ペタ)…1,000,000,000,000,000倍(1000兆倍)
T(テラ)…1,000,000,000,000倍(1兆倍)
G(ギガ)…1,000,000,000倍(10億倍)
M(メガ)…1,000,000倍(100万倍)
k(キロ)…1,000倍
なにもなし…1倍
m(ミリ)…1,000分の1
μ(マイクロ)…1,000,000分の1(100万分の1)
n(ナノ)…1,000,000,000分の1(10億分の1)
p(ピコ)…1,000,000,000,000分の1(1兆分の1)
a(アト)…1,000,000,000,000,000分の1(1000兆分の1)
f(フェムト)…1,000,000,000,000,000,000分の1(100京分の1)

ちなみに、

・【水素原子のファンデルワールス半径(原子核の中心から電子軌道までの距離)】
=1.2Å(オングストローム):約120億分の1メートルである。
・【ガンマ線の波長】
=10pm(ピコメートル)程度:約1000億分の1メートルである。


正しい知識は身を助ける。情報に踊らされるのではなく、自分で正しい知識を身につけ、情報の真偽を見極めよう。

以上。

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