電力使用量NOW

2011年5月17日火曜日

放射能と風評被害8

地元の友人からいろいろ尋ねられたので、久々に放射線などのことを書こうと思います。物理学的事実は入念に調べた上で書いていますが、福島原子力発電所についての考え方にはある程度主観が混じっているので、読まれるお方はそのあたりを理解した上で読んで下さい。

返信遅くなって申し訳ない。原子力工学の核心について、電気電子工学技術者の立場から説明します。かなり長いですが、しっかり飛ばさずに読んでください。

まず、原子炉の扱いについて。メルトダウンという現象は、原子炉の中核を担う核燃料の冷却不備のために、燃料自身が高温になり融点を超越したがゆえに溶け落ち、圧力容器の内部を突き破って格納容器以外に露出する状況を言います。普段、原子炉内部の核燃料は、中央制御室の命令伝達により反応する量をコントロールされます。このときに使用されるのが「制御棒」と呼ばれるもので、この制御棒が核燃料の周りを上下し、反応を押さえたり促進したりします。制御棒の性質については後述します。

核燃料の反応は、「中性子」と呼ばれるものによって引き起こされます。これが燃料にぶち当たると、核燃料に含まれるウランが分裂し、2つ以上の他の物質になるとともに、中性子と莫大なエネルギー、すなわち熱が放出されます。この反応を「核分裂反応」といい、原子力発電はこのエネルギーを利用して水をお湯に変え、タービンを回して発電しています。また原子炉において、水は反応して生成された熱を奪い、核燃料を冷却する役割を持つことから「冷却水」とも呼ばれ、また中性子の速度を弱めて核分裂反応を穏やかにする役割も持つことから「減速材」とも呼ばれます。

核分裂反応の過程で、エネルギーと中性子が放出されますが、この放出された中性子は、また次の核分裂反応に利用されます。これを「核分裂反応の連鎖」といい、放っておくとどんどん反応が進んでいって、手の付けられない状態になってしまいます。メルトダウンは、このような状態で起こるもので、反応が連鎖的に行われ過ぎたために、燃料が多量の熱を持って自分自身を溶かしてしまったために炉心溶融が起こったということです。ちなみに、燃料の熱と中性子の数がうまくバランスして、ちょうどいい具合になっている状態を「臨界」といい、これを越えると中性子を吸収する性質のある制御棒でコントロールして、燃料に当たる中性子の数を減らす必要があり、臨界より下回る状態ならば、反応を促進するために中性子の数を増やしてやる必要があります。原子炉を停止するには「中性子の数を可能な限り減らす」「延々と冷却する」という困難な絶対条件を達成しなければなりません。初期対応の遅れによって、それら重要なコントロールがなされなかった結果、今の福島第一原子力発電所があるわけです。

さて、浜岡原子力発電所の停止命令について、今回の政府の対応が正しかったのか?ということに対しては、大幅な自分の主観を織り混ぜて言わせていただけば、75対25で「正しくない」と思います。原子力発電所は「停めれば安全」というような類いのものではないからです。その理由は上に記した通り、内部の状態を適切に把握した上で、制御しコントロールしなければならないからです。停止状態といえども、内部の核燃料を取り出し、安全な場所へと移送し、核廃棄物として破棄するまでに何年もかかります。原子力発電所の完全な廃炉までには20~30年かかると言われています。原子力発電所の一番厄介な問題がこのことで、停めたからといって直ちに安全になるわけではありません。停止後の西日本のエネルギー問題から廃炉までを含めた、そこから先の具体的プロセスがどのようになっているのかが肝心なんです。とりあえず「停止した」ことは、安全への第一歩として評価に値することかもしれませんが、所詮は第一歩に過ぎず、それ以降の計画を示さない限り、ただのパフォーマンス、ただの思い付きと言われても仕方ないでしょう。

次に、放射性物質による健康被害についてです。まず覚えておいて欲しいのは「放射」「放射線」「放射能」「放射性物質」という4つの「放射」がつく言葉です。

放射とは、ある物質が何らかの電磁波や光(光も電磁波の一種です)を放つ現象のこと。

放射線とは、放たれた電磁波のうち、特に人体に対して多大な影響を及ぼす電磁波。α線、β線、γ線、エックス線など。

放射能とは、ある物質の持つ「放射」をする能力のこと。

放射性物質とは、そのような放射能を持った、すなわち放射してγ線などを放つ物質のこと。

「放射能を持った放射性物質が放射する放射線」と覚えてください。

以下、この4つの言葉の意味を覚えた上で読んでください。

人体に対する放射線の影響については、簡単に言えば放射性物質から熱い熱線が出てヤケドをする、と考えれば妥当だと思います。このように、放射線によってヤケドをすることを「被曝」と言います。「爆」ではなく「曝」です。漢字に注意。ただし、ヤカンを触ったりストーブに触ったりして受けるヤケドと異なるのは、そのヤケドが知らないうちに徐々に進行していくことです。人間の体の6割程度は水分で出来ていますが、残りの4割は有機物で出来ています。「有機物」とは、炭素が含まれた物質全般を指し、簡単に説明すれば「焼いたときに炭になる」もののことです。それ以外のもので構成されている物質を「無機物」と言います。無機物の多くは、酸素雰囲気中(要するに空気中)において酸素と化合する「酸化反応」によって燃焼、すなわち酸化しますが、酸素の少ないところで炭素と反応させれば元に戻ります(還元反応)。対して有機物は、一度加熱して変質したら二度と元には戻りません。ヤケドの傷がなかなか治らないのは、傷が元に戻るわけではなく
、新しい細胞がヤケドした部分を作り直すのに時間がかかるからです。

このように、放射線という高エネルギーの電磁波を受けることにより、人体に対して影響があることは明らかです。しかも、炎を飲み込んだりヤカンを熱いまま飲み込んだりすることはできませんが、放射性物質は目に見えないほど小さく、空気中に飛散しているものを無意識に吸い込んでしまうこともあります。その場合、体内でそのヤケドが進行し、臓器に何かしらの損傷を受けることになります。これを「体内被曝」といいます。具体的に体内被曝によって人体に対してどんな影響があるか?については、原子力が如何に恐ろしいものであるか…を一般の人に「片寄った視点で」「一方的に」植え付けるために、非常に簡単に説明してくれるサイトが山ほどありますので、そちらを参照してください。彼らの主義主張はともかく、健康被害についてのことはだいたい合っていますので。

最後は、放射能に関する単位について。これは、私のブログで細かく説明してあるので、そちらを見て欲しいと思いますが、念のため放射能に関する3つの単位を軽く挙げつらってみます。

「グレイ(Gy)」…放射線そのものの強さを表す単位。もちろん、大きければ大きいほど強い放射線であるということを表す。

「シーベルト(Sv)」…放射線によって起こりうる健康被害の目安を数値化したもの。大きければ大きいほど健康被害が大きい。

「ベクレル(Bq)」…放射性物質が、平均して一秒間に何回放射線を放射するか?という確率を表す単位。

3つの単位は似て非なるものです。また「ミリ」「マイクロ」などの「接頭語」も重要です。1メートルが1000ミリメートルであるように「ミリ」とは「1の1000分の1」を表す言葉です。「マイクロ」は「1ミリの1000分の1」すなわち「1の1000000分の1」を表します。ただ単に数字が大きければたくさんあるのか?というわけではなく、ミリやマイクロという言葉をしっかり理解した上で、正しく判断して欲しいと思います。

ここまでいろいろな用語が出てきました。一通り分かりやすく説明してきたつもりではありますが、原子力に関して一番大事なことは「正しい知識」です。闇雲に怖がったって、目の前で起こっている現象はどのような現象か?どのような意味があるのか?を理解して、正しい行動をとることができるか?の判断をするのは自分自身です。結果としてどうなるのか?は起きてみないと分かりません。それくらい、原子力というものは「確率」に左右されやすい現象の集まりです。

難しい言葉をたくさん使ったのは、この言葉の意味が分からないと、テレビやネットの報道で流れてくる解説や数字を見ても、ただただ不安になってしまうだけで「何かよく分からないけど危ないらしい」と思い込んでしまいます。風評被害の一番大きな要因が、このような「原子力に対する理解不足」だと私は考えています。「原子力」とか「核」とか「放射能」などの名前が付くだけで不安になってしまったり、敬遠してしまったり。結果として「放射能がうつる」などという全く事実と反する理由で、福島から埼玉に避難した子供たちがいじめに逢うという悲劇が起こってしまうわけです。子供に理解しろというのは無理なので、これは周りの親が正しい知識をまるで持ち合わせていない故の結果…と私は捉えています。専門家がいくらテレビで言ったって無駄なんです。もはや誰も信用しません。だったら自分で正しい知識を身に付けるしかないのではないでしょうか?

要するに一番言いたいことは「自分で勉強してね」ということです。例えばシーベルトに関して言うならば、ブラジルと日本で基準が数倍程度異なります。それくらい「基準」なんて曖昧で適当なものなんです。大事なのは「何シーベルトでどの程度の健康被害があるのか?」ということをしっかりと知っておくことです。でないと、無闇にいろいろなものを敬遠してしまうことになるからです。

自分はどちらかと言えば専門家寄りの人間に属すると思いますが、まだまだ知識が不足しているとも感じています。調べて理解したことは逐一ブログなどで発信していくつもりではあります。なるべく主観無しにまとめて、ブログに分かりやすく解説していこうと思いますので。

とりあえず以上。

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