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2011年1月29日土曜日

スコアって

今日は英語5時間で疲れた…。

目の前にネコがいるので、今日は「スコアってどのように使うの?(=譜読みの方法)」について考えてみようと思う。

音楽をやる上でどうしても切り離せない概念、それは「自分のポジション」であるように思える。言い換えれば「アンサンブルをどのように組み立てていくか?」ということを、自分の頭で考えることであろう。ご存じの通り、ソロ(独奏)を除く全ての音楽に「アンサンブル」という概念が存在する。つまり、他の誰かと演奏を行う際に、自分の立場をよく考えなければならない、ということである。

厄介なことに、その「立場」というものは一定ではない。曲の最中にその役割は、それこそ今自分の目の前にいるネコの目のようにめまぐるしく変化する。もちろん、その役割が一定な場合も存在するのであろうが、極めて少数であろう。そして、その役割の変化は、アンサンブルに参加する人数が増えれば増えるほど、より複雑になる傾向にある。

例えば、弦楽4重奏というジャンル。よく言われることに「この演奏形態には、アンサンブルの要素が全て詰まっている」。手放しに賛成は出来ないが、言い得て妙であると思う。人数が少なくなれば少なくなるほど、各個人の役割がより明確になるから、弦楽に限らず、どんな楽器のアンサンブルでも、まずは少人数で「自分の役割に責任を持つ」という作業に慣れることが肝心であろう。

では、具体的にどのようにして自分の役割を認識すればいいのであろうか?

まず始めにすべきことは「自分以外の楽器は、どのような音を出しているのか?」ということを調べることである。自分以外の音を知れば、相対的に自分の役割が分かる。そのためには「総譜(スコア)」が必要になる。

弦楽4重奏を例に取ろう。自分がヴァイオリン1番であったならば、担当すべきは主に旋律であろう。ただし、いつもそうであるとは限らない。2番ヴァイオリンと組んで、刻みを担当する中でヴィオラが旋律を演奏することだってあるだろう。その場合、同じような動きをしているのは2番ヴァイオリンである。無論、旋律であるならば、スコアの中では他のパートと連携して…ではなく、旋律的な動きをしているであろう。それが主旋律であるなら問題ないが、オブリガード(対旋律)である場合、少々厄介かも知れない。その辺は、またいずれ説明する。

自分の役割が明確になったら、次にすべきことは「音量、音程の取り方」を考えることである。もちろん、スコアを傍らに置きながら考えていくことである。

ピアノという楽器は、現代においては主に「平均律」と呼ばれる調律がされている。ピアノは200本にも及ぶピアノ線が張られており、それらの張力を調整することによって音程を決定する。つまり、演奏の最中に、根本的な音程の微調整をすることが出来ないのである。ここで「根本的に」という言葉を使ったのは、鍵盤を叩く強さを変えることによって、若干ではあるが音程の上下が可能である。優れたピアニストというのは、この打鍵の強弱によって音量の大小のみならず音程の高低もコントロールするのである。

一方、管弦楽に用いられる楽器の多くは、演奏の最中に音程の微調整が可能である。弦楽器であるならば、押弦の位置を若干ずらすことによって、木管楽器であるならばブレスのコントロールまたは変え指によって、金管楽器であるならば、やはりブレスコントロールによって、音程の微調整が可能である。

実は、ピアノに用いられる「平均律」と呼ばれる調律法は、言わば「妥協の産物」である。和音を美しく響かせるには、その音の波の調和が最も大事な要素である。細かい話は割愛するが、ピアノで妥協していたようなことが、音程を微調整できる管弦楽器においては容易に実現出来るのである。

ハ長調。
上昇音型のとき、7番目の「H」が導音である。

 イ短調。
この「Fis」と「Gis」が「A」に向かう導音であるから、
この2つの音を平均律より若干高めに取ることによって、
旋律に緊張感を与える。

この概念は、旋律、和音両方において重要である。つまり、自分が旋律を担当しているのなら、例えば上昇音型の最後の音(1度への導音)は若干高めに取ることによって、その音に若干の緊張感を持たせ、そして1度へと達したとき、その緊張感が解放される(和声楽においては「解決」という)ような印象を与えるのである。さらに「旋律中の臨時記号」は、♯ならば若干高く、♭ならば若干低く音程を取れば、より旋律的な印象を与えるはずである。また、自分が和音の一要素であるのならば、その和音が最も豊かに響くように、自分の音程を微調整する。例えば1-3-5の長3和音であるならば真ん中の音(長3度の音)を若干低く、1-3-5の短3和音であるならば、逆に真ん中の音(短3度)を若干高く音程を取る。1-3-5-短7で構成される7の和音であれば、1-3-5のルールに加えて、短7の「不協和音」を、上手く調和するように「かなり低めに」音程を取る必要がある。

ハ長調の1の和音(一番左)とハ短調の1の和音(左から2番目)。
いずれも3の音(EまたはEs)を若干変化させることにより、
平均律よりも豊かな響きを得ることが出来る。

7の和音。
短7度を混ぜる和音では、短7度をかなり低めに取ることにより、
1-3-5にうまく調和させることが出来る。

音量に関しては、音程ほど抽象的ではない。考慮するべきことは、自分の楽器の特性(どのような音色か?他の楽器と比較してどれくらい音量が出るのか?音程と音量の関係は?)である。それをよく熟知した上で、アンサンブルの中での音量を決定する。もちろん、要求される音量は刻一刻と変化するから、曲の場面をよく理解すべきことは言うまでもない。

音量の決定において、一つ大事なことがある。それは、他の楽器と全く同じ音、または同じような動きを演奏している場合である。弦楽4重奏を例に取ると、1番ヴァイオリンが旋律を演奏していて、2番ヴァイオリンとヴィオラで刻んでいるとする。もちろん、その場面の主役は1番ヴァイオリンであるから、2番ヴァイオリンとヴィオラは1番ヴァイオリンの邪魔にならないような音量を心がける必要がある。では、2番とヴィオラが、それぞれ通常の8割掛けくらいで演奏すればいいのであろうか?答えは「No」であろう。なぜなら、旋律1つ(1番)に対し、伴奏は2つ(2番&ヴィオラ)である。人間の耳の特性(カクテルパーティー効果)や、波の干渉など、単純な足し算(0.8+0.8=1.6)で言い切れるものではないのだが、自分ひとりのことだけではなく、自分側の音が2つあることを考慮し、それに応じた音量のコントロールが求められるであろう。

このように音程、音量の微調整というのは「知らなければ出来ない」ことであり、楽器の巧拙とは若干趣を異にする。つまり、ソロでどんなに素晴らしい演奏が出来たとしても、アンサンブルにおいてこの部分が考慮されていなければ、全くもって意味がないばかりか、邪魔をしていることにさえ成りかねない…と言えるだろう。旋律はもとより、和音のパーツであれば、他人(他の音)との「直接の関わり」を持つと言うことであるのだから、自分の役割を明確に自覚し、それを音程や音量という物理現象(=出音)として実現することは、アンサンブルにおいては非常に重要なことである。

アンサンブルを研究する上でスコアで読み取るべきことは、慣れないうちは上に挙げた2つ(自分の役割、音量と音程)だけで十分であると思う。もちろん、慣れてきたら他のいろいろなことが読み取れるようになるだろうし、読み取る必要も出てくるだろう。しかしながら、いっぺんにいろいろと手を伸ばしすぎると、人間というものは思考的に破綻してしまう。初めのうちは「考えなければ手に負えない」ことを、少しずつ「慣れ」て消化していき、自分の「センス」として取り込んでいく。やがて、以前は「考えなければ手に負えない」ことでも、無意識のうちに実現出来るようになるだろう。一つ出来るようになったら、もう一段高いレベルのことに一つずつ挑戦していけばいい。某走り屋マンガで某とうふ屋のオヤジも言っていたが、楽器を演奏することは自転車や車の運転と同じである。音楽は頭で考えることももちろん大事だが、経験(=センス)に裏打ちされた熟練の技術も大事であるのだから。

言いたいことは山ほどあるのだが、キリが無くなるので以上。なお、ここに掲載した諸処の説明、解説は、私個人の浅はかな経験に基づくものであり、これが必ずしもどんな場合でも最良の方法である、ということを言いたいのではない。ただ「自分なりに音楽というものを解釈して、それを実戦してみることが如何に大事か?」ということをネット上のごく一部をお借りして力説しているに過ぎない。ここを読まれた方々も、私の戯れ言を鵜呑みにするのではなく、自分なりに音楽というものと向き合い、自分なりの結論を出して頂ければ幸いである。

以上。

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