電力使用量NOW

2011年5月26日木曜日

ああ勘違い

おもしろいTweetを見つけた。

「蒸気よりも水流の方が力強いに決まってるのに、わざわざお湯沸かして発電するのは電力会社の陰謀」というツイートを読んで、日本における産業革命の訪れはまだまだ先であることを思い知る。

いや…気持ちは分からないでもないし、特定の場合においては、水流のエネルギーが蒸気のエネルギーを上回ることもある。だから、言っていることは確かに間違っちゃいないんだけども。

でも、この考え方には「質量」というパラメータが抜けている。

物体の運動エネルギーは次式で表される。

E=1/2(mv^2) [J]

つまり、ある物体の速度の2乗と質量を掛け合わせたものを2で割ると、それはエネルギーになるのである。

エネルギーというのはおもしろいもので、いろいろな表し方がある。物体を高いところに持ち上げて離したとする。ちょうど、上のTweetで言う「水流」のようにね。高いところにある物体は、重力の影響を受けて低いところへ移動しようとする。移動の過程で速度が発生する。その速度と、自身の持つ質量によって、何かしらの「仕事」をする。このとき、高いところに存在する物質は「仕事をする潜在的なエネルギーを秘めている」ことになる。このエネルギーを「位置エネルギー」または「ポテンシャルエネルギー」と言う。位置エネルギーは次式で表される。

E=mgh [J]

質量と重力加速度、そして高さを掛け合わせたものが位置エネルギーになる。

一方、蒸気のエネルギーは「熱力学」という独立した分野で論じられる。熱力学は非常に難解であるため、今ここでは「熱=エネルギー」という乱暴な条件を付加する。

500度の水の持つ運動エネルギーを考えてみる。ここで「水って100度までしか温度上昇しないんじゃないの?」と思った方、それは半分正解で半分誤りである。水という「液体」に関して言えば、確かに100℃までしか上昇しないであろう。しかし、水という「分子」に関して言えば、必ずしもそうではない。100℃を超えると、水は「水蒸気」という気体へと変体する。また、500℃どころか1000℃、2000℃と上昇していくと、ついには水分子そのものがバラバラ(H2O → 2H + O)になってしまう。そして、さらに温度を上げていったとき、水分子(というかもう別物)は「プラズマ」となるのである。

気体分子の平均運動エネルギーは、ボルツマン定数を用いて、

E=3/2k・T [J]

ここで、kはボルツマン定数(=1.38 x 10E-23[J/K])、Tは絶対温度である。

例として、500℃の水が持つエネルギーは、

E=3/2・1.38・773 x 10E-23
=1600 x 10E-23
=1.60 x 10E-20[J]

ものすごく小さく見えるかも知れないが、これは「水分子1つ」のエネルギーであって、実際にはもっとたくさんの水分子が存在している。1モルあたりに換算すると、水分子の質量数は

H(=1)x 2 + O(=16)=18

であるから、水分子1モルあたりの質量は約18gである。1モルの気体分子数はアボガドロ数(6.02 x 10E23)であるから、500℃・18gの水蒸気の持つ運動エネルギーの平均は、

E=1.60 x 6.02 x 10E-20 x 10E23
=9.632 x 10E3 [J]
=9632 [J]

これだけでは大きいエネルギーなのか小さいエネルギーなのかがサッパリ分からないので、水力発電と対比させて考えてみよう。水の位置エネルギーによって発電する水力発電の場合を考えると、18gの水が9632Jのエネルギーを持つには、どのくらいの高さから落とせばいいのか?ここで風の抵抗は無視することにすると、mの単位は[kg]であるから、18g=0.018kg。gは重力加速度であるから、9.8を代入する。

E=0.018*9.8*h=9632
0.1764h=9632
h=54603.17[m]

この解は何を意味するのか…。水12gが9632Jのエネルギーを持つためには、地球の上空54kmの高さから自由落下させてやらなければいけないのだ。それだけ、水蒸気のエネルギーというものは莫大なのである。

ただ、ここでは水を常温から500℃まで暖めるエネルギーは考慮していない。水1gを1℃暖めるエネルギーを1cal(=4.2J)とするならば、水18gを常温(=300K)から500℃(=773K)まで上昇させるためのエネルギーは、

E=18 x (773 - 300) x 4.2
=35758.8[J]

この分を考慮すると、18g・500℃の水蒸気が持つ平均運動エネルギーは、

E=9632-35758.8
=-26126.8[J]

まあ、マイナスになるわな。

…とまあ、ここまでつらつらと書いてみたが、実際の現象としては「効率」というものを考えなければいけない。熱が水に全て伝わるのか?全ての水蒸気がタービンに当たるのか?自由落下の際の空気抵抗は?考え始めるとキリがないが、要するに必ずしも理論通りになるわけではないということだ。

ここまで見て、どちらが高効率か?という議論はしない。見た人が判断すればいい話だ。ただ、何故「蒸気機関」というものが発明され、産業革命が起こり、世界の工業が発達してきたか?を考えれば、水蒸気の力が偉大なものであると言うことに異論はないであろう。

ああ、久しぶりに物理学の教科書を引っ張り出してみた。

以上。

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