先日、某国の首脳が「臨界って何だ?」と、東工大出身の輝かしい頭脳を誇示して見せたとの報道があったばかりだが、ここで「臨界」という言葉について説明してみようと思う。
簡単に説明すれば「入力と出力がつり合う点」とでも言おうか。
原子炉の場合での入力とは「中性子が燃料にぶつかる」こと。
一方、出力とは「核分裂で中性子が放出される」こと。
原子核分裂反応とは、どこからかやってきた中性子が、ある物質に衝突することによって、新たな物質と新たな中性子が生成される反応のこと。原子力発電では、燃料に衝突した中性子が新たな物質と中性子を生み出し、生み出された中性子が次は衝突する中性子になる「ループ反応」を実現することによって発電している。すなわち、ある時点では「出力」であった中性子は、次には原子に衝突する「入力」になるのである。しかも、大抵の場合、放出される中性子(=出力)は入力よりも大きくなるため、放っておいたらどんどん中性子が増大し、やがて暴走を引き起こすこととなる。この「入力」と「出力」を上手く制御することによって暴走を防いでいる。
暴走を防ぐための手立てとして、水と制御棒が重要になる。
水は、減速材および冷却剤として用いられる。減速材とは、中性子の速度を落とし、核分裂反応を抑制させるための物質であり、多くの原子力発電では「軽水(=フツーの水)」が用いられている。高速増殖炉で漏れ出した「液体ナトリウム」も減速材である。冷却剤は、反応によって生成された熱を冷ますためのものであると同時に、蒸気にすることによってタービンを回す媒体となる。この軽水はタービンにぶち当てられたあと「復水器」とよばれる熱交換機(ラヂエータみたいなもの)を経由することによって、蒸気から水へと冷まされたあと、再び原子炉へと入っていく。また、水は中性子を吸収しやすいため、ある一定の暴走抑制効果もあるが、行き過ぎた中性子の吸収は発電に不利であるため、水を使用する原子炉では燃料を濃縮する必要がある。そのため、核分裂を起こしにくい天然ウラン(ウラン238)を濃縮し、核分裂を起こしやすいウラン235を数%程度含む「濃縮ウラン」にしてやる必要がある。「高速増殖炉」では、このウラン濃縮を行わず、高速な中性子を直接ぶち当てることで効率的な核分裂反応を獲得しようという画期的な試みであったが、もんじゅでの事故をはじめとして、制御が難しいという課題を抱えており(特に減速材である液体ナトリウムの扱いが困難)、現在は使用済み核燃料を再処理したMOX燃料を用いて発電する「プルサーマル」が台頭している。原子力先進国と謳われたフランスでは、かつて「スーパーフェニックス」という高速増殖炉が運用されていたが、見合った成果を出すことが出来ず廃炉となった。日本ではもんじゅの事故以来、高速増殖炉は鳴りを潜めている。
制御棒は、中性子を吸収しやすい材料で作られた棒で、燃料の周囲に配置することで、燃料に当たる中性子そのものの量をコントロールするためのものである。これを移動させることにより、材料に衝突する中性子の量をコントロールし、暴走が起きないようにしている。この制御棒は、主に「炭化ホウ素」などの中性子をよく吸収する材料で出来ている。
いずれもバランスが大事で、どれか一つが欠ければ暴走を引き起こしかねないし、どれか一つが過大であればうまく反応が起こらない。原子力が時代とともに進化して、コンピュータの制御で安全に運用できるようになった。しかし、コンピュータと言えども完全ではない。結局は人が見て確認して、安全に運用できるように努めなければならない。
原子力発電は安全な運用が第一。その存在を根底から否定するつもりはないが、運用する側にはそれなりのノウハウが要求される。「想定外」なんて許されないのだ。その証拠に、今回の「地震」そのものには耐えた。その後の津波でバックアップ体系が破壊された。バックアップが破壊されるなんてことはあってはならない。今回の福島第1原発の事故は天災なんかではない、間違いなく人為的ミスであるように思う。
以上。
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