今回は音程の微差について。
器楽合奏をしていると、よく言われること。それは「音程を合わせろ」ということ。しかし、この「音程を合わせろ」の真意について熟知している人は、あまりいないのではないかと思う。
何故音程を合わせなければならないのか?大半の人は「音程が合わないと下手に聞こえるから」と答えるに違いない。しかし、本当に大事なことは音程の差違による不安定感ではなく、むしろ音量の方にあると思う。
何故、音程について議論しているのに、音量の話になるのか?
もっと具体的に言えば「波の干渉による音量の減少」であるように思う。
下の波形を見ていただきたい。
上は「440Hzの正弦波を0.01秒間鳴らしたときの波形」
下は「441Hzの正弦波を0.01秒間鳴らしたときの波形」
である。ほとんど見分けが付かないと思う。
では、0.5秒ではどうか?
実際にそれぞれを2秒間鳴らすと、以下のような音となる。
440Hz
441Hz
耳で聞いても、目で見ても、この2つの音の差を区別できる人は少ないだろう。
しかし、だ。
この2つの音を同時に鳴らすとどうなるか?
まずは音を聞いてみて欲しい。
周期的に音量が変化していることが分かるだろうか?
この音の波形は、以下のようになっている。
目で見れば一目瞭然である。たった1Hzの音程のズレによって、音量までもが変化してしまうのである。
ちなみに、このズレの差が小さくなればなるほど、この「音量変化の周期」はゆっくりになり、大きくなればなるほど早くなる。では440Hzに「441Hz」または「443Hz」の波を加えた場合の比較をしてみよう。
「440Hz + 441Hz」
「440Hz + 443Hz」
波形で表すと以下のようになる。上が「440Hz + 441Hz」、下が「440Hz + 443Hz」である。
443Hzを同時に鳴らした方が、音程の変化も急激になっていることが分かるだろう。
では、全く同じ2つの波が、同じタイミングで同じ時間だけ鳴ったときはどうなるか?それは単純な足し算になり、音量が純粋に2倍されるだけである。
ただ、これは「正弦波である」「時間的な音程の揺らぎがない」という極端な例であって、実際の演奏において必ずしもこのような波形になるとは限らない。
しかしながら、自然現象における「音」というものは所詮「空気の振動」であるから、このような物理学的性質は無視するべきでないと思う。
人数はいるのに「何故か音量が小さい」弦セクション…。
「もっと音を出せ!」とがなり立てる指揮者…。
「しっかり弾いてるつもりなのに…」と心で文句を言う奏者…。
このような光景は、アマチュアオケで往々に見られる光景ではないだろうか?こういった症状の場合「音量」よりも「音程」に気を配ってみてはどうだろう?
ストリングスが少人数でもベートーヴェンなどの交響曲を演奏できる楽団はたくさん存在する。その秘密は、弦セクションがこのような物理学的な性質を理解して、音程と音量に常に気を配っているからであろう。
楽器が鳴らない…自分の道具に文句を言う前に、まずは自分自身のウデも見直してみてはいかがだろうか?
次回は、ヴィブラートや音色を含めたより深い「波」を検証してみようと思う。
以上。
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