最近、頭からどーも離れない曲がある。
NHK「小さな旅」のテーマである。
この番組は、特定の地域に住む人々の暮らしや、その暮らしを取り巻く環境にスポットを当てて紹介する紀行番組であるが、このテーマ音楽が素晴らしく、それこそ自分が小さい頃から頭の中に蒸着して離れないものであった。
最近ふと思い出すことがあって、いろいろと調べているうちに、このテーマの作曲者が「大野雄二」氏であることが分かった。
大野雄二氏と言えば、今や「ルパン三世」の音楽を一手に引き受ける作曲家…というイメージが強いが、もともと本業はジャズピアニストである。その大野氏が、より広い活動の場を求め、ジャズのみならずCMや番組テーマ、そしてルパン三世などのサントラを手がけてきた。「小さな旅」は、その様な活動の中で生み出された一曲。
雰囲気的にはルパン三世の「愛のテーマ」に近いと言われている。類似点を挙げると、
・両者ともにキー(敢えて”調”とは呼ばない)がGm(敢えて”g-moll”とは呼ばない)
・旋律がアコーディオンとコールアングレという違いこそあれ、オケの編成はほぼ同じ。
キーがGmというのはジャズ出身の大野氏らしい。なぜなら、ジャズ系の管楽器(サックス、クラリネット、トランペット、トロンボーン…)は、みな移調楽器と呼ばれる「in B♭」であるからだ。
サックスはソプラノとテナーがB♭、アルトとバリトンがE♭、クラリネットはB♭とAがあるが、ジャズではB♭、オケでは両方よく使われる。トランペットはB♭、A、C、D、Eなど各種あるが、廉価のモノは大抵B♭である。トロンボーンは記譜こそ実音であるが、楽器としての調性はB♭である。以上のように、ジャズではフラット系のキーが多用される。ちなみにコールアングレはFである。
とにかくいい曲なので、一度は生オケを使って演奏してみたい野望をかねてから持っていた。コード進行が非常に秀逸で、曲としての進行が全く嫌みでない。コード自体もそれほど難しい組み合わせを使っているわけではないので、心に残りやすいコード進行である。
曲を語る上で、自分が最も重視しているのが「コード進行」である。最近の音楽は全くもってコード進行が面白くない。だって単純なんだもん。ワンパターン。旋律もワンパターン、オケもワンパターン。どれも同じ曲に聞こえる。
うん、分かる。「厳密に言えば違うじゃないか」ってことはよく分かる。ただね、いろんなジャンル(ジャンルって言葉も好きではないが)の音楽をまんべんなく聴いていると…何となく読めちゃうんだよね。先の展開が。クラシック的、それもバロック〜古典なコード進行って、個人的には嫌みが無く、だからといって単純すぎるわけでもない、一つの完成系だと思う。今から200年以上前の話。そこから無調性やら何やら難しい話が出てきて…結局今巷に溢れているのはバッハとかベートーヴェンとかの足元にも及ばないような、何の教養もない下らない音楽。作曲やってる人がクラシックを聴かないのは…ホントに怠惰以外の何者でもないと思う。楽器の使い方、和音の鳴らし方、音符の置き方など…得るモノは多すぎて余りあるくらいだと思うのに。
コード進行ばっかりは聴いてきた音楽がモロに出るから誤魔化しがきかない。作曲における教養って、実はコード進行のことじゃないかしら。
本質的にはジャンルなんて関係ないと思うんですよ。ただ、語る「言葉」が違うから通じ合えないの。ジャズ・ポップス・ロックは基本的に英語。「和音」じゃなく「コード」。「属七和音」じゃなく「セブンス」、「減5の和音」じゃなく「ディミニッシュ」。クラシックは基本的に日本語(楽典用語)とドイツ語(歌詞、楽典用語)、イタリア語(歌詞、指定記号・用語)。英語は「ad lib(厳密にはラテン語)」「シャープ」「フラット」くらいか。
お互い歩み寄ったら?とはいつも思う。幸いなことにジャズやってる方々は勉強熱心な人が多くて、クラシックにも抵抗がない…というか多大な興味を持っている人が多い印象。困ったのは肝心のクラシックの人と「自称」ロックの人。お互い見下すんだよねぇ。何故なんだか。
分からんでも無いけど、しっかりとクラシックやってる人には、自称ロッカーはまず太刀打ち出来まい。理詰めで反論に窮して、ハイおしまい。若しくは話が通じなくておしまい。その逆は決して成り立たない。何故なら、ロックをしっかりやってる人って、クラシックを必ず通ってる人なんですよ。で、上手く消化してるの。ヴァイ然り、パット・メセニー然り(この人はロックを飛び越えてしまってるが)、ディープ・パープルの面々然り、ジミー・ペイジ然り…。
クラシックの人がロッカーを見下すのは、単なる思い込みと勘違いだと思う。だって、クラシックの歴史こそロックの歴史じゃないか。クラシックが400年かかって進化してきたこと、楽器こそ違えどジャズは100年、ロックは60年。肯定と否定、進化の繰り返し。ベートーヴェンなんてどう考えたって希代のロッカーですよ。クラシックは400年という歴史こそあれ、それが唯一無二なんて考えるな。クラシックだって聖と俗、表裏一体で「ケシカラン」って言われてた時代だってあったじゃないか。ヴァイオリンなんて「悪魔の楽器」って言われてた時代だってあったんだし。
まあ、この辺りはいずれ詳しく考えてみようと思う。
そう思い続けて10年、大学の後輩から借りた「シンバルズ」に衝撃を受けた。コード進行が素晴らしすぎる。残念ながらずいぶん前に解散してしまったが、主要メンバーの一人、作曲を一手に引き受けていた沖井礼二氏は「Frog」名義でCDも出してる。それもまたいいんだよねぇ…。日本にもまだまだ素晴らしい作曲家がいるじゃないか。
何か「小さな旅」関係なくなっちゃったけど。
以上。
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